手すり

地下鉄に乗った。朝のラッシュが収まろうという時間帯だ。
人もようやくまばら。そういうとき、
一生懸命に階段の手すりを磨いている清掃員が眼についた。
上下うす緑の作業着で、両手をつかい、白地のきれいなタオルで磨いている。
ステンレス製の手すりが輝いており、
どうも上の段から、下の段へと磨いて降りてきたのだと思われる。
彼の表情はやや堅い。なんとなくだが、真偽は不明だが、
もしかするとやや精神的な不自由さをお持ちの方かもしれない。
今日はいかに手を抜いて仕事をしようか・・・
合理的に、という大義名分を掲げ、
いかに軽く流すか・・・
そういったぬるい考えを抱いていた私にとって、
黙々と、だれに評価されることを期待するでもなく、
ひたすら、光り輝く手すりに仕立て上げた、
清掃員の彼に、
仕事人の輝かしい姿を垣間見た。